二人っきり





「センパイ」

着替え終わった黄瀬が笠松に声をかけた。

いつものことだった。

二人は周りには秘密にしているが、実は付き合っているのだ。

いわゆる恋人同士というやつで、ほぼ毎日のように一緒に帰る。

明日は部活はなく、ゆっくりと二人きりで過ごせそうだ。

しかも、黄瀬の家に泊まることになっている。

何でも福引で温泉旅行が当選し、家族でいくらしい。

黄瀬本人は部活と仕事があるといって行くのをやめたらしいが。

「本当に温泉行かなくていいのか?」

「俺センパイと過ごす方がいいっスから」

と、笠松にとって嬉しいことを口にする。

「そうか。一度、家に帰るけど、黄瀬、お前はどうする?」

さすがに制服のまま直行というわけには行かなくて、一度家に帰ることになった。

「俺も付き合いまスよ。結局自分の家に行くし…」

センパイと長く居たいから。

と黄瀬は付け足した。

笠松は黄瀬の言葉に嬉しくて、思わず、黄瀬の頭をなでた。

たまに笠松は黄瀬の頭を何故か優しくなでることがあるのだが、黄瀬はそれが好きだった。

笠松の愛情が伝わってくるようだったからだ。



笠松の家に寄り、そのまま黄瀬の家に向かう。

向かう途中でたわいのない話で盛り上がる。

バスケの話で盛り上り、あっという間に家に着いた。

二人は黄瀬の部屋に入り、カバンを置くと黄瀬は着替え始める。

「センパイ、適当にしててくださいね、すぐ着替えますから」

「ああ」

笠松は返事をすると棚に一冊の雑誌に目が留まった。

取り出してみると、黄瀬の特集の載った雑誌だった。

改めて、モデルやってんだよな。と笠松は思った。

カメラマンがいいのか、確かに写真映りは綺麗だった。

ぱらぱらとめくっていると

「センパイ、そんなの見なくても本人目の前にいるじゃないっスか」

着替え終わった黄瀬が笠松の後ろから抱き着いてきた。

「そうなんだけどよ、やっぱり実物と違うよな」

「違うって?」

笠松は雑誌をパタンと閉じると真横にある黄瀬の顔を覗き込んだ。

「リアルがいいってことだ」

笠松はそのまま黄瀬に軽くキスをした。

黄瀬はそのまま遠くなりそうな意識を元に戻し、キッチンへと向かった。


「センパイ、俺、カレー作りますから、待ってて…」

「黄瀬、俺も手伝うぜ、二人でやった方が早いしな」

ということで、二人でカレーを作ることになった。

いっぱい作れば、明日の朝も昼も食べれると踏んでのことだった。

さすが、手際のいい黄瀬の動きに笠松は関心した。

ご飯も炊け、カレーも程よく煮込まれて完成したところで二人はやっとご飯にありつけた。

「うまい」

笠松はひとくち食べるとそう声を出した。

「そりゃ、俺の愛情入ってますからね…」

黄瀬はそんなことをヘラッといい放つ。

笠松は何も言わない代わりに笑みをこぼした。

誰もいない二人だけの空間のリビングでご飯を食べる。

普段とは違う、滅多に味わえない状況に顔は終始笠松はニンマリしてしまう。

そんな笠松を気にしてないのか、どんどん色々な話題を振る。

その話題に笠松は受け応えして、聞く。

そんな静かなやりとりがしばらく続いた。



二人が部屋に戻ったころには夜遅い時間になっていた。

「黄瀬」

笠松は隣で雑誌を読んでいた黄瀬に声をかけた。

黄瀬は視線を雑誌から笠松に向ける。

と、同時に笠松は黄瀬を抱きしめた。

「センパイ?」

「悪い、我慢できね…」

黄瀬は笠松の体を引き離すと笑みを浮かべた。

「実は…俺もっス」

二人はそのままベッドになだれ込むと口付けを交わす。

「黄瀬…好きだ」

笠松は目の前の愛しい後輩に向かって言う。

「センパイ…俺…幸せっスよ…」

黄瀬も優しい温もりを感じる先輩に返事を返した。


二人だけの静かな空間を大事にしたい。

笠松はそう思った。



夜はまだ深い。





おわり